この記事の結論

Xが2026年9月2日、米国クリエイターの報酬支払いをStripeからX Moneyへ全面移行。最低30ドル・隔週払いの制約が撤廃され即時受取が可能に。7月の米国正式ローンチ以降の動きと規制面の課題を整理する。

米クリエイター報酬がX Money一本化へ

X(旧Twitter)は2026年9月2日、米国のクリエイター向け報酬支払いを決済サービス「X Money」に全面移行した。対象となるのは「Original Content Rewards Program(オリジナルコンテンツ報酬プログラム)」とクリエイターサブスクリプションの収益で、これまで利用されてきたStripe経由の支払いは米国内クリエイターの選択肢から外れた形だ。

Xの公式クリエイター向けアカウントによれば、すでにX Moneyを利用しているユーザーは追加の手続きは不要で、次回の支払いから自動的にX Money宛てに送金される。まだ登録していないクリエイターには、X Moneyのアカウント開設が案内されている。事実上、米国内での報酬受け取りはX Money経由が唯一のルートとなった。

隔週払い・最低30ドルの壁が消えた

今回の移行で最も実利が大きいのは入金スピードの改善だ。従来のStripe経由の仕組みでは、支払い処理は2週間に1回のサイクルで行われ、さらに引き出しには最低30ドルという下限額が設定されていた。小規模なクリエイターにとっては、収益が発生しても手元に届くまで長く待たされる構造だった。

X Moneyへの移行後は、この2つの制約がいずれも撤廃される。送金された瞬間から資金にアクセスできる「即時払い」となり、少額の収益でもアプリ内のウォレット残高としてすぐ利用可能になる。受け取った資金はそのままX Visaデビットカードでの決済や個人間送金に回せるため、プラットフォーム内で「稼ぐ→使う」が完結する設計だ。

収益分配プログラムの再編も同時進行

支払い手段の変更は、Xのクリエイター報酬制度そのものの再編と同時に進んでいる。従来の「Creator Revenue Sharing Program(収益分配プログラム)」は2026年8月に新規受付を停止し、2026年9月7日をもって終了した。既存の参加者は、Original Content Rewards Programへ移行される。

新プログラムは、エンゲージメント指標だけでなくオリジナルコンテンツであるかどうかに、より大きな比重を置く点が特徴とされる。転載や自動生成的な量産投稿で広告収益を得るモデルから、独自制作コンテンツへ報酬を集中させる方向への転換と読める。決済インフラの内製化と報酬制度の刷新がセットで進められている構図だ。

X Moneyとは何か:年利6%・キャッシュバック3%の中身

X Moneyは、預金口座・個人間送金(P2P)・Visaデビットカードをアプリ内に統合したデジタルウォレットで、イーロン・マスク氏が買収当初から掲げる「エブリシング・アプリ(万能アプリ)」構想の中核を成す。2026年7月27日に米国のPremiumおよびPremium+加入者向けに正式ローンチされ、Apple Wallet対応も加わった。

登録すると仮想のX Cardが自動発行され、Apple Payに追加できるほか、名前表記やXユーザー名の記載有無を選んだ物理のメタル製カードも注文できる。訴求されている条件は、対象支出に対して最大3%のキャッシュバック、預金残高に対して最大6%のAPY(年利)で、ATM手数料や海外利用手数料は無料とされる。請求書支払い、電信送金、給与の直接入金(最大2日早い受け取り)といった銀行的な機能も備える。預金はFDIC加盟行であるCross River Bankが保管し、預金保険の対象となる。新規ユーザーへの15ドルのウェルカム入金も案内された。

招待制ベータから全面開放までの経緯

X Moneyの立ち上がりは段階的だった。2026年3月に招待制ベータが開始され、マスク氏は同月、4月の一般公開を予告したが、ベータでのフィードバック対応により遅れが生じた。

転機は6月25日。X Money責任者のドルーヴ・バトゥーラ氏がPremium+ユーザーの一部への先行公開を発表し、翌26日にはあるユーザーがマスク氏本人へ25ドルを送金し、マスク氏が公開で応答するという「実証デモ」が話題を集めた。そして7月27日、Premium層全体への開放とApple Wallet対応が実施され、数か月に及んだベータ期間が終了。9月にはクリエイター報酬の受け皿としての役割が加わり、ユーザー基盤拡大の導線が一段と強化された形だ。

規制・セキュリティ・信頼という三つの壁

一方で課題も明確だ。ニューヨーク州とマサチューセッツ州では追加の規制承認が完了しておらず、7月の提供開始時点でX Moneyは利用できない。報道ベースでは41州と首都ワシントンD.C.での提供にとどまる。Xは銀行免許を保有せず、取得の意向も示しておらず、提携銀行とVisaの決済網に依存する構造だ。

政治的な逆風もある。2026年4月14日、エリザベス・ウォーレン上院議員がマスク氏宛てに書簡を送付し、消費者保護や利用者資金の保全体制への懸念を提起した。加えてセキュリティ面では、X Moneyの情報を狙ってXアカウントへの不正アクセス試行が増えているとの報道もある。PayPalの約4億3000万口座、Venmoの約9000万ユーザーといった既存勢と比べ、Xは月間5億5000万人規模の接触面を持つ一方、紛争解決や不正対応の実績という「信頼の蓄積」では明確に劣後している点が指摘されている。

日本での展開はどうなるか

現時点でX Moneyは米国限定のサービスであり、日本のユーザーが口座開設や6%APY、Visaデビットカードを利用できる段階にはない。クリエイター報酬のX Money一本化も、あくまで米国内クリエイターが対象とされている。

ただし布石は打たれている。2026年5月、X Corp.が日本国内で「X MONEY」の商標を出願していたことが確認された。指定役務には電子決済関連が含まれており、将来的な日本展開を視野に入れた動きと見られる。もっとも日本で送金・決済サービスを提供するには資金移動業の登録など国内法上の手続きが必要で、米国内ですら2州で免許が下りていない現状を踏まえれば、日本上陸の時期を予測するのは時期尚早だ。公式発表を待つ姿勢が現実的といえる。