この記事の結論

イーロン・マスク氏率いるXのデジタルウォレット「X Money」が2026年7月末にVisaデビットカードの発送を開始。6%APY・3%キャッシュバックの条件、Cross River Bank提携、規制当局の視線まで最新状況を整理する。

X Moneyの現在地:招待制での本格展開が進行中

X Moneyは、旧TwitterであるXが提供するデジタルウォレット・送金サービスだ。2026年7月27日に新たな資金移動機能として正式に立ち上がり、同時にX ブランドのVisaデビットカードが投入された。現時点でサービスは招待制(invite-only)であり、公式サイトによれば米国在住の18歳以上の一部ユーザーが対象で、対象範囲の拡大に向けた作業が進められている段階だ。銀行機能の提供にあたってはCross River Bankのサービスが利用されている。

2026年7月末には、実際にカードを受け取ったユーザーがSNS上でX Moneyカードを披露する投稿も相次ぎ、カードの物理発送フェーズに入ったことが確認された。Xの画面上では、招待されたユーザーに「Money」メニューが表示される仕組みとなっている。

2025年のVisa提携から2026年の段階的ローンチまで

X Moneyの構想は、マスク氏が2022年にTwitterを買収した直後から語られてきた。転機となったのは2025年1月のVisaとの提携発表で、XはVisa Direct(リアルタイム送金基盤)を用いて、X Walletへの入金、デビットカード連携によるユーザー間送金、銀行口座への出金を実現すると説明した。当時のCEOリンダ・ヤッカリーノ氏は、この提携をX Moneyに関する「多くの大型発表」の第一弾と位置づけていた。

その後、Xは40州超の資金移動業ライセンスを取得。2026年3月にはマスク氏が「4月から一部の一般ユーザーに提供」と投稿したが、ベータテストの完了が遅れ、実際の拡大は6月下旬にずれ込んだ。6月25日にはBloombergが、X Moneyの責任者Dhruv Batura氏の投稿を引用し、プレミアム会員の一部へアクセスを拡大したと報じている。Batura氏は「フィードバックを集め、より広範なローンチに向けて問題を解消するため、米国のPremium+ユーザーの一部に提供する」と説明した。

6%APYと3%キャッシュバック:提示されている特典の中身

X Moneyが注目を集める最大の理由は、その還元条件の高さにある。報じられている内容によれば、PremiumおよびPremium+の会員は、Xデビットカードでの対象支出に最大3%のキャッシュバック預金残高に最大6%のAPY(年利)を得られるとされる。2026年3月のベータ版に関する解説では、ユーザーのXハンドル名が刻印されたメタル製Visaデビットカード、海外取引手数料ゼロ、ピアツーピア送金といった機能も挙げられている。

預金保護についても設計が進んでいる。資金はCross River Bankに預けられ、提携銀行のネットワークへスイープされることで、FDICのパススルー保護が最大1,000万ドルまで拡張されると説明されている。セキュリティ面ではパスキー認証、取引限度額のカスタマイズ、誰がどれだけ資金を動かせるかを管理するプライバシー設定が用意されている。サポートは24時間体制とされる。

P2P送金の実装と初期のトラクション

2026年6月26日には、米国のユーザーがX Moneyのピアツーピア機能をテストするため、マスク氏本人に25ドルを直接送金する出来事があった。マスク氏はこの送金をX上で公に確認し、米国のPremium加入者向けに決済サービスが本格稼働したことを印象づけた。

Xが金融トラフィックを生み出せる可能性を示す材料もある。株式・資産のシンボル表示機能であるCashtagsは、導入直後に世界で10億ドル規模の取引ボリュームを牽引したと報じられており、ソーシャル上のエンゲージメントを金融取引へ転換できることを示唆している。マスク氏は将来的に、マネー・マーケット口座や「スマートCashtag」経由の株式取引、資産運用機能まで視野に入れていると語っている。

競合と規制:PayPal・Venmo・Cash Appの牙城に挑む

X Moneyが参入する2026年の市場では、PayPal、Venmo、Cash Appが依然として支配的な地位を占めている。PYMNTSは2026年8月17日の記事で、消費者の直近の小売購入におけるデジタルウォレット利用が2024年3月から2025年11月にかけて50%増加し、なかでもZ世代のモバイルウォレット利用の伸びが最も速いと指摘。Xが競わなければならないのは、すでに定着した決済習慣そのものだとしている。

規制面の視線も厳しい。エリザベス・ウォーレン上院議員はマスク氏に書簡を送り、消費者保護やユーザー資金を守る体制の準備状況に懸念を示した。機能追加と対象拡大が進むにつれ、こうした監視は強まっている。マネー専門家のクラーク・ハワード氏は、破格の条件について「マスク氏がマーケットシェアを確立しようとしているロスリーダー(客寄せ)だ」との見方を示している。

今後の展望:全ユーザー開放と日本展開の見通し

全Xユーザーへの完全公開は2026年半ばが目標とされてきたが、確定した完了時期は公表されていない。2026年8月末時点でも招待制が続いており、対象は米国に限定される。マスク氏はX Moneyについて、ユーザーにとって従来型の銀行口座を不要にする設計だと述べ、決済・メッセージング・コマースを単一プラットフォームに統合する構想の金融的な柱と位置づけている。

日本のユーザーが留意すべき点として、現時点で提供地域は米国のみであり、6%APYや3%キャッシュバックといった条件も米国の提携銀行スキームを前提としている。日本での提供には資金移動業の登録など国内法上の対応が必要となるため、公式発表を待つ必要がある。米国での本格展開の成否が、その後のグローバル展開のペースを左右することになりそうだ。